晴耕雨読

晴耕 2020.07.31

住宅の性能vol.5【パッシブデザイン】

みなさま、こんにちは。
菊川市・掛川市を中心に、設計デザイン+施工をご提供する内海建設です。

先月、先々月と2度に渡って、「住まいの断熱性がなぜ重要なのか」についてご説明しましたが、今回はその続編として『パッシブデザイン』についてご説明します。

これまでの2回の内容は下記をご覧ください。
住宅の性能vol.3【住まいの断熱】前編
住宅の性能vol.3【住まいの断熱】後編

パッシブデザインの成り立ち
今から約70年前、日本は終戦後の高度成長期を迎え、科学の進歩と経済的なゆたかさによって人々の生活は大きく変化していきました。
それと同時に、住まいの温熱環境についても、暑さや寒さに伴うストレスを冷暖房機器によって取り除くデザインが広がっていきました。
しかし、日本の気候風土を無視し、建物の断熱性能が乏しい状態のまま機械設備に頼った結果、さまざまな弊害が生じました。

光熱費が膨れ上がったり、冷え性や腰痛などの体調不良が生じたり、結露やヒートショックに悩まされたりする人々が増え、さらには原発問題やCO2問題など、地球環境自体にも悪影響を及ぼすようになってしまったのです。
こうした状況を改善するために、太陽エネルギーや気候風土と呼応するデザイン、つまり、「パッシブデザイン」が注目されるようになってきました。


■パッシブデザインとは
パッシブデザインとは、太陽のエネルギーや気候風土といった既に存在しているものを活かせるように建物を設計することで、なるべく少ない労力でその働きを効果的に引き出していくデザイン手法のことです。

・太陽が燦燦と注ぎ、気持ちいい風が吹いているのに、それを取り入れないデザイン。
・身近に良い材料や技術があるのに、それを利用しないデザイン。
・冷暖房をフル稼働しないと、快適な室内環境が成立しないデザイン。

これらはどう考えても合理的ではないし、エネルギー問題が深刻化している現代にはふさわしくありません。

■古来の日本建築から学ぶこと
パッシブデザインは、機械設備のなかった時代のすぐれた日本建築にもともと高いレベルで備わっていました。
冬の日射取得や夏の日射遮蔽、通風、防湿、蓄熱の工夫といったパッシブデザインの手法は、かつての日本建築の手法や知恵がお手本とされています。
たとえば、夏には直射日光を遮り、冬には斜めから射す日光を取り入れる「庇」。
庇だけでは防ぎきれない夏の日射は、「よしず」や庭の「落葉樹」で遮ります。また、「縁側」を設けることで、冬は戸や障子で仕切って断熱・気密層を確保でき、夏は開け放って涼しく過ごせます。
屋根に瓦を用いることで断熱・遮熱を図り、熱のロスを防ぎます。

これらに代表されるように、かつての日本建築には意匠と性能が高いレベルで融合し、情緒的かつ合理的な美しいデザインが展開されていました。

ゆたかな自然風土と人々の生活を繋ぐ役割をもつ日本の建築技術は、世界的にみても非常にユニークでハイレベルなものだといえるでしょう。

しかし、現代の生活や環境に対応するには、もちろん昔のデザインを改良し、新しい手法や考えを採り入れていく必要があります。つまり、機械に依存するのではなく、上手に利用することが今日のパッシブデザインに求められているのです。

■機械の力を上手に利用して、省エネ×年中快適な環境を実現する方法とは
最近の空調設備は燃費が良く、環境に与える負荷も少なく、コストパフォーマンスもたかくなっています。こうした優れたものを利用しないで我慢している状態は不自然といえるでしょう。
では、機械の力を上手に利用して、省エネ×年中快適な環境を実現するにはどうしたらいいでしょうか。
まず、熱の動きや働きをしっかり考慮した「断熱性能」を高めることが不可欠です。また、いくら断熱性を高めても気密性が低ければ効果がないため、断熱と気密をセットで考える必要があります。

断熱・気密性能は、「建物の保温力」とも言い換えられます。
冬は太陽の熱を効果的に取り入れ、その暖かさをしっかり保ちます。
夏は日射をしっかりと遮蔽すれば、外気の影響を受けることなく土蔵の中にいるような涼しさが得られ、冷房の利きも格段と上がります。



■パッシブデザインで得られる効果とは?
次に、断熱・気密性を高め、気候風土や機械の力をうまく利用してパッシブデザインがなされると、どのような効果がみられるのでしょうか。

第一に、住まう人の体が楽になります。パッシブデザインの住まいに入居してから、冬も暖かく過ごせるようになったため、冷え性や猫背、腰痛の改善などがみられたというケースが数多く報告されています。

第二に、家全体の室温にムラがなくなるため、夏に暑くて2階に上がりたくないとか、冬に寒いので北側の部屋や廊下に行きたくないといったことがなくなります。
同時に、ヒートショックや結露やカビの心配も激減します。

第三に、冷暖房効果を高めるために部屋を仕切る必要がなくなり、開放感を得られるのと同時に、プランの自由度も高まります。

その他、もちろん省エネにも貢献します。

さらに意外なのは、断熱気密性能を高めると、自然をより身近に感じられるようになります。寒い状態で雪を見ても美しいとは感じませんが、暖かい部屋から雪景色を見ると美しいと感じられるのがその一例です。

また、気候風土を活かした住まいで暮らしていると日々の天候や気温に敏感になり、四季の変化を楽しめるようになります。

このように、本当の意味での「いい家」とは、光や風、四季の変化など、当たり前に存在しているものの価値や美しさを気づかせてくれるものではないかと思います。

私たちの家づくりにおいても、パッシブデザインを通じて、お客様にいつまでも快適に、そして心豊かに暮らしていただける住まいをご提供していきたいと思っています。

文:代表取締役 内海 明

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